あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


珈琲を一口飲んだ。
途端に広がる、風味と匂い。

少し前までこれが美味しいと思っていた自分が凄い。
今は胸焼けと吐き気しか湧かない。

それでも何とか笑顔を取り繕って。

「本当。これで今からの仕事も捗りそう。ありがとね」

私の言葉に満足そうな後輩を、手を振って追い返す。
ちょうどそのタイミングで主任が自分の机に帰ってきた。

片手にはファイルを持っている。資料室にでも行っていたのだろう。

「主任!今日は中田先輩お墨付きの珈琲です。どうぞ!」

後輩の高くて甘い声を聞きながら、私はそっとフロアを出た。
向かう先は女子トイレ。

幸い、誰もいなかったから、私は思う存分、胃の中のものを吐き出した。

「……っ……」

悪阻は辛い。
でも主任には吐いていることは話してない。

申し訳なさそうにする主任を見たくなかったのだ。

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