あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
ここは仕事場。
気にするな。中田綾音。
ひとつ深呼吸をして、給湯室の扉を開けた。
無表情のまま、入ってきた私を見て、中にいた三人が固まる。
「お疲れ様です」
堂々と言ってやると、まさかの本人登場で慌てふためく三人は、しどろもどろになりながら、給湯室を出ていった。
やかんに水をくみ、火にかけると、一人になった給湯室でため息をつく。
なんか、疲れた。
人のうわさ話って怖いなぁ。
どこをどう通って、矢田部長と不倫騒動になるんだろう?
部長がかわいそうだ。
そもそも私と部長が一緒に帰るのって、他の人がやれ合コンやデートやと私に仕事を押し付けて帰るからでしょうが。
そういえば、さっきいた三人も、合コン常習犯だな。うん。
「ふぅ……」
誰も見ていないことをいいことに、私は大きく息を吐いてから、珈琲を淹れた。
その優しい香りが少しだけ、私の心を癒やす。
「お待たせしました。部長」
「ありがとう。中田さん」
部長のそばにブラックコーヒーを置いてから、私は自分の分を、デスクに置いた。
私のは、ミルクたっぷりのカフェオレ。甘党なのだ。
カフェオレを一口啜ると、先輩社員が私のもとに、やってきた。
「ね、中田さん!ちょっとお願いしてもいい?これ、明日の午前まででいいからやっといてもらえない?」
噂をすれば、出た。
合コン常習犯。4人目。
「いいですよ」
ニッコリ笑って、仕事を引き受ける。
一人きりの家に、帰ってもすることないから。残業を引き受けることにした。
これくらいの量なら、終電逃すほど遅くはならないはず。
パソコンのフリーズを解除して、仕事に向き合い始めた。