あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
主任はその言葉を残して、スタスタとフロアを出ていくから、私は慌てて追いかけた。
主任の脚は長いから、追いつくためにはどうしても駆け足になってしまう。
「こら、走らない」
足音に気づいた主任が振り返って、私を諌めた。
私はその声を完全無視。
「主任。一人で行かれるのですか?大阪まで?」
「ああ。このプロジェクトの責任者は一応俺だからな」
主任は淡々と答えるけれど、ここは東京だ。
東京から群馬工場に品物をもらって、大阪に向かうって、どれだけ時間がかかるっていうの?
「私も手伝います。せめて運転の代わりにでも」
夜を通しての仕事になるのは避けられないだろう。
主任が責任感のあるひとだとは知っている。
今回の手違いはうちの配送ミスに原因があるのもわかる。
でも主任一人で背負い込むのは何か違う。
そんな私の言葉に主任は顔を横に振った。
「いや、いいよ。お前は自分の体調を最優先にしろ。さっきも吐いてただろう?」
「主任……でも……」
「段ボール箱を何箱も抱えて運ぶんだ。妊婦が出来る仕事じゃない」
主任はそう言って、身を翻した。
私よりも広い背中が遠くなる。
妊婦という私の身体を第一に考えた発言だろう。
だけど……"お前は邪魔だ"と言われているようで。
気を遣わせているようで。
私のことを拒絶するようなその広い背中は、私の胸をギュっと締め付けた。