あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
慌てた私に、部長はどこかバツが悪そうな顔で微笑む。
「ああ、ごめん。さっき、井上くんと話ししている所、耳に入っちゃって」
「……」
「盗み聞きじゃないよ。本当に偶然、聞こえてきただけ。たぶん、周りには誰もいなかったから、他に聞かれている人はいないと思う」
部長の言葉にホッとする。
正式な発表の前に噂になってほしくない。
「それで?相手は井上くんなんだろう?」
この人なら……矢田部長なら、きっとあることないことを吹き込む噂好きじゃない。
そう信じて、私は頷いた。
「プロジェクトが終われば、きちんとご報告するつもりだったんです」
「ということは、井上くんと結婚する訳だ」
「……そのつもりではいます」
拒絶されたような主任の背中を思い出した。
妊娠しているというだけで、完全には主任のフォローができない。
気を遣わせたり。心配掛けたり。
そんな私の迷いを部長はすぐに察してくれた。
「まだ迷っているのか?」
「……っ……」