あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
主任が私の家のインターホンを鳴らしたのは、朝の6時だった。
「……猛スピードで帰ってきた」
インターホン越しの主任にいつもの覇気はない。
相当疲れが溜まっているようだ。
「今開けますから、上がってください」
一番にここに来てくれたことに驚きつつも素直に嬉しいと思った。
疲れながら運転しているだろう主任を心配して、昨日帰ってからもなかなか寝つけなかった私。
寝不足の頭で、若干ふらつきながらも、部屋の鍵を開けた。
玄関先で待っていると、忍ばせながら歩いてくる足音がして、静かに戸が開いた。
「お帰りなさい……貴幸さん」
矢田部長に言われた通り、微笑みながら、お帰りなさいと言った。
こんな場所まで役職名で言われるのは嫌だろうと、滅多に呼ばない名前で呼びかける。
「……ただいま」
主任は一瞬、虚をつかれたような目をしたあと、ふぅと疲れたようなため息をつく。
「お仕事、お疲れ様です」
目の下にクマができている。
髪はぐしゃぐしゃで、スーツは皺だらけ。
「私も貴幸さんも半休をいただきましたから、少し休みましょう」
「ああ」
もう勝手知ったる私の家を主任は遠慮なしに入っていく。
寝室の扉を開けると、彼はワイシャツのボタンを外し始めた。