あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


気にするな。気にするな。

必死になって、入力作業に集中しようとした。
しかし、部長と主任が会議に出席中の今、視線は憚ることなく、私に向けられる。

決して、気分がいいものではない。
まだ完全には収まらない、悪阻も手伝って、胃がむかついていた。

「……最低だよね」

「婚約破棄に同情してもらったんでしょ?」

ノートパソコンを挟んだ向こう側から、囁きあう声が聞こえる。
一応、勤務時間であることを気にしてか、小声ではあるが、私に聞こえないようにする気はなさそうだ。

予想通りの行動ではあった。
仕事に支障が出るようなことはないから、まだありがたい。

「……こんなにも電撃結婚するってことは、できちゃったのかな?」

「え、何が?」

「……赤ちゃんに決まってるじゃない」

……ご名答。
私もまさか、結婚することになるとは思いませんでしたよ。

今晩、とうとう、主任の家に行く。
まだ家の引っ越し準備は全く手をつけていないから、一緒に暮らすことはまだ無理だけど。

一度、連れっていってもらえることになった。
今度の週末には、籍を入れることも決まった。

全部、昨日、主任が言い出してくれたことだ。

結婚に関して、不安もあったけれど、主任の『家で誰かが待っているって、いいな』という言葉に勇気をもらった。

初めて、主任と結婚したら、案外幸せになれるんじゃないかな、って思えた。


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