あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
そのとき、ガチャっと扉が開いて、営業部の井上(いのうえ)主任が入ってきた。
「お疲れ様です。矢田部長……と、中田もいるのか?」
「お疲れ。井上くん」
「お疲れ様です。井上主任。金曜日に残業したけど、終わらなくて」
土曜日は普通、休日である。
しかし、どうしても、仕事が終わらなかったり、取引先のアポが土曜日にしか取れなかったりすると、休日出勤をする人がいる。
営業事務の私はアポとかないから、滅多に休日出勤はなし、ここのところ、引っ越し準備などで、仕事は平日中に終わらすよう心掛けていたから尚の事。
だから土曜日に私がここにいるのが井上主任には珍しいようだ。
「お前が終わらせられない仕事って何だよ」
井上主任も矢田部長も、結構私に対する評価がいい。
ありがたい話だ。
「違うんだよ。井上くん。これ本当は彼女の仕事じゃないんだ。鈴木さんに任せたものなんだ」
矢田部長の言葉に、主任は眉をひそめた。真面目で責任感の強い主任は自分の仕事をきっちりやり遂げない人間が嫌いなようだ。
「また、あいつ……最近給湯室で喋ってると思ったら……」
主任は大きなため息をついた。
給湯室。
きっと、私のうわさ話だろう。
内容……井上主任も聞いてたのかな……。私と矢田部長の不倫話聞かれてたら厄介……部長の印象も悪くしてしまう。