あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「それは……すまない」
軽く頭を下げる主任。
顔を上げた彼の手のひらが、スッと私の頬を慈しむように撫でた。
そして、彼は口を開いて、自分の想いを吐いてくれた。
「君が……婚約指輪を会社につけてきたとき。初めて気がついた気持ちだった」
……つい半年前の話だ。
半年前、恋人だった勇輝からプロポーズをされて、受け入れた。
そのときに、貰った婚約指輪を会社につけていって、結婚する旨を、上司である主任と部長に伝えたのだ。
そのとき、主任は無表情だった。
いや、勇輝しか見ていなかった私は、主任の変化に気付かなかったのかもしれない。
彼は……かなしそうにしていたのではないだろうか。
彼にとって、恋のはじまりは始めから、恋の終わりを告げていた。
「祝福しようと覚悟を決めた。しかし、しばらくして、君の婚約破棄の噂が広まったんだ。君には悪いけれど、心の中は拍手喝采だったよ」