あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


……雨の音がする。

まどろみの中で瞳を開けて、焦点が定まらないまま、右側を見た。
そこに主任の姿はないから、慌てて身体を起こす。

愛し合い、求めあったあとで、主任がまたどこかへ行ったのかと思ったのだ。

……だけど、違った。

主任は寝室の窓枠にもたれかかり、外を見ていた。

「……貴幸、さん」

散々鳴かされ、かすれた声で名前を呼んだ。

「起きたか。綾音」

彼は振り返り、私の元へやってくる。
すでに下着と白いTシャツを着ていた。

一方、私はまだ生まれたままの姿で、毛布にくるまれていた。
果てたあと、やはりいつものように、眠りについてしまったらしい。

「いなくなっちゃったのかと思いました」

「ごめん、不安にさせたな」

安心させるように、頭を撫でられる。
その手つきが優しい。

「身体は辛くないか?痛いところとかは?」

「ないです。大丈夫」

強がりでも何でもなく、どこも辛くなかった。
それだけ、彼は妊婦の私の身体に気を配り、優しく優しく、愛してくれた。

< 146 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop