あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
エリート主任の苦難
1
「主任、今日、中田さんはお休みですか?」
空席のまま、綺麗な状態が保たれている綾音の席を見つめながら、尋ねてきたのは、俺の部下である春日だ。
もともと開発部志望だったのだが、願い届かずに、営業部になってしまった新人。
しかし、その愛想の良さと、人懐っこい笑顔は営業向きだと思う。こいつ結構、出世するんじゃないかな、と俺も矢田部長も踏んでいるのだ。
「そうだけど、何か用事あったか?午後からは出勤するって言ってたけど」
綾音は今日、半休を取って検診に出かけた。
赤ちゃんの心音が聴けると、朝からご機嫌で、鼻歌まで歌っていたぐらいだ。
「いえ、発注をお願いしたいんですけど、何せ、女性陣が浮き足立っておられるので……」
俺と綾音が結婚して一ヶ月。
綾音は中田姓から井上に変わった。
今は妊娠4ヶ月。
少しずつだが悪阻もマシになり、食欲も増えてきた。
最初の頃は、嫌味やうわさ話に励んでいた女性陣だったが、俺が冷たい視線を送ると黙るようになり、最近はネタが尽きたらしく、何も言わない。