あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「ここは合コン会場じゃないって何回言えばわかるんだ?」
春日の言葉にため息をつく。
そう、女性陣が朝からそわそわしているのには理由がある。
「松山さんってどんな方でしょう?」
「先輩に昔の写真見せてもらったけど、とっても、素敵だったの!」
松山悟(まつやまさとる)さん。
実は俺が入社したときの指導係だった方だ。
俺より5つ上の34歳。
独身かつ渋いが紳士的。
イケメンというよりハンサムという言葉がよく似合う。
男の俺から見ても、素敵だという声には頷ける。
3年前から他県の工場ラインをまとめる工場長を勤めていたが、本社に復帰することになったのだ。
我が営業部の部長補佐として。
今までにも、部長補佐がいたのだが、体調を崩したらしく突然辞めてしまったからだ。
「鈴木。午後一提出するように頼んだ資料は出来ているから、喋っているんだよな?」
浮足立ち、おしゃべりに夢中の女子社員に声を掛けると、ハッとした表情をして、ようやくキーボードに手を掛けた。
周りの社員も慌てて、パソコンに目を向ける。
「さすがです。井上主任」
今日、その松山さんが午後から挨拶に来るのだ。
女子社員たちはその噂を聞きつけたため、今の事態に陥っている。