あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
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「みんなー。話は聞いていると思うが、少し注目してほしい」
松山さんが矢田部長に連れられて、フロアに入ってきたのは、午後二時頃だった。
ビシッとスーツを着こなし、颯爽と歩く姿に、フロアは静かになる。
男も女も思わず、見惚れる優雅さ。
34歳にして、若白髪らしく、すでに髪の半分は白髪だったが、むしろそれすらも彼を大人の男のように見せる。
「彼は来週から我が営業部で僕の補佐をしてくれることになった松山くんだ」
矢田部長の言葉のあと、松山さんは一歩前に出て、頭を下げた。
「松山悟と申します。以前は静岡工場の工場長を勤めておりましたが、来週からはこちらでお世話になります。
至らない所があると思いますが宜しくお願いします」
一礼のあとに、松山さんがニコッと笑えば、女子社員たちが浮足立ったのが目に見えて分かった。
俺はわざわざ職場まで愛想よくはしないが、松山さんは違う。