あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


怪訝な顔をしていたのだろう、松山さんは楽しそうに笑った。

「そうだよ。知り合いだよ?綾音ちゃん」

「なんで……」

「昔、綾音ちゃんに告白されたから」

基本的に、冷静なほうだと思う自分だが、この時ばかりは、そうはいかない。
既に開いていた目を更に見開き、息を呑んだ。

「お前の位置からは見えなかったかもしれないけれど、挨拶したとき、綾音ちゃんも俺のこと気づいたみたいだよ」

そうだ。松山さんが挨拶をしたとき、綾音は俺に背中を向けていて、その表情は全く見えなかった。

一体いつどこで知り合ったのだ。
甘いカフェオレを呑みながら、松山さんは答えを教えてくれる。

「俺が大学生のとき、バイトで塾の講師やってたんだ。そのときの生徒が綾音ちゃんだった。当時は中学生だったかな」

それは俺が知らない綾音の話。

何度か綾音の卒業アルバムは見せてもらったけれど、当時の話を綾音はあまり語らない。

「志望校だった高校に合格したって報告を受けた時、告白された。当時、俺にも彼女いたし、断ったけど」

肩を竦めてみせた松山さん。
俺は目を細めて、彼を見つめた。

松山さんは一口カフェオレを飲んで、笑った。
不機嫌な俺をこの人は絶対に楽しんでいる。

そんな俺に追い討ちを掛けるように。

「久しぶりに会って、大人っぽくなってた。井上があの子泣かせたら、俺が貰おうかな」

松山さんは笑いながら、とんでもない爆弾発言を落としたのだ。

< 156 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop