あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「松山さん。その節は本当にお世話になりました」
松山さんが声を上げてくれなかったら、俺はあのまま泣き寝入りしていたかもしれない。
「それは構わないが、しばらく気をつけたほうがいいぞ。吉岡は既婚、未婚問わず気に入った男に体当たりしていったらしいからな」
……頭に浮かんだのは、綾音の顔だった。
吉岡さんにあることないことを吹き込まれて、別れを告げたかつての彼女。
二人の笑顔が何故か重なる。
笑っているのに、どこか苦しそうで。
「綾音をこれ以上苦しめたくないな」
俺の不器用で、意気地なしな性格が、散々綾音を苦しめていた。
セフレという中途半端な立場で、何度不安にさせただろう。
「俺も綾音ちゃんの様子は注意しとくよ。それでもって、俺の所に来るように仕向けておこう」
「何かあったら、矢田部長にヘルプ求めるように、綾音に言っておきますね」
要注意人物は、松山さん、あなたもです。
「以外と独占欲強いんだね、井上は」
カフェオレをズズッと啜って、松山さんが笑った。