あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


目があった綾音はニコッと微笑んで、手を合わせる。

「いただきます」

確かに、綾音が言うように、松山さんは素敵な人だ。
外見も、中身も。

だからこそ、不安になるのに。

「食べないんですか?貴幸さん」

「あ、いや、いただくよ」

松山さんに会ってみて、どうだった?

意気地なしの俺は、その一言がどうしても出てこない。

「赤ちゃんの写真は貰ってきたのか?」

「エコーの写真ですか?ありますよ。あとで、ゆっくり見せますね」

わざと、他の話題にすり替える。
綾音がとても嬉しそうに話す赤ちゃんの話題。

まだまだお腹の膨らみは目立たないけれど、リビングでくつろいでいるとき、よく綾音は赤ちゃんに話しかけている。

いいママになるんだろうな。

「意外と貴幸さんって、子供好きですよね」

慈愛に満ちた目を綾音から向けられる。
愛おしいものを見つめるときの綾音の瞳。

その視線一つにも愛を感じる。

守りたい。
守りたいから、ちゃんと伝えよう。

吉岡美麗が帰ってくるかもしれないことを。
綾音も狙われるかもしれない危険性を。

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