あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「お疲れ様!じゃあ、カンパイ!」
それぞれのグラスがぶつかり、涼しい音がする。
部長と主任が生ジョッキで、私は烏龍茶だ。
「中田さん、呑めないんだ?」
部長の言葉に頷く。
「はい。アレルギーなんですよ、私。注射の前のアルコール消毒でも腕が赤く腫れちゃって」
「大変だね」
「ええ」
盛り上がるのは、もっぱら私と部長。
主任は私の隣で淡々とビールの入ったグラスを空けている。
「枝豆頼んでいいですか?枝豆」
「いっぱい食べな。中田さん」
生ジョッキを一杯空けた時点で、部長の顔はほんのり赤かった。一方で、主任の顔は全く変わらない。
上司二人が相手だったが、とても楽しかった。私は久しぶりに心から笑えたと思う。
しかし、居酒屋の壁に掛かった時間が針を刻むたびに帰る時間が迫っていることに焦燥を抱いた。
帰ればまた一人になる。
冷たいソファで無理やり目を閉じて、眠りにつくのを待っているのだろうか?
いやだ。さみしい。
……帰りたくない。
そんな思いを打ち消すように、私は沢山笑い、沢山喋った。