あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「……どこか浮かない顔だな。綾音」
綾音が何か言いたげに俺を見ては、口を閉ざしている。
綾音はあまり多くのことを語ろうとはしない。
何でも一人で抱え込もうとするのだ。
だからこそ、瞳が訴えているときは、きちんと尋ねるように心掛けている。
何でも伝えてほしいから。
不安も辛さも寂しさも、楽しかったことも、嬉しかったことも。
全部を一緒に分かち合いたいから。
「もしかして平野さんのことか?」
俺が心当たりのあることを尋ねると、彼女はためらいがちに頷いた。
平野さんが俺をヘッドハンティングしようとしていたことは記憶に新しい。
そのために、綾音に牽制していたことも。
ヘッドハンティングの話は断った。
俺が何より綾音の近くで仕事を続けていたかったからだ。
「……ヘッドハンティングをお断りして以来、初めて会われるんですよね?」
平野さんの話があったとき、正直迷った。
これから成長していくだろう『starlight』という会社に興味はあったし。
この会社に恩があるとは正直思えなかった。
松山さんや矢田部長には感謝していたけれど、吉岡さんの一件以降、あまり会社が好きとは思えなかった。
それでも、引き止めたのは、綾音の存在だ。