あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
キララくんパッケージの売れ行きは好調だった。
しかし、あれはキララくんの存在を教える期間限定商品。
もうすぐ、期間は終了する。
「この売れ行きなら、第二弾もいけるかもしれないな」
「ですよね!私もそう思って、プレゼンの準備を進めているんです」
さすが、敏腕主任。
もうプレゼンの準備ですか。
近々、重役を招いての会議を開く必要があるかもしれないな。
第一弾の売れ行きを見れば、重役も納得して商談がまとまりやすいだろう。
「……井上さん。一つお尋ねしたいのですが」
「はい。何か?」
仕事の話だと思って姿勢を正すと、彼女が俺の左手を指差すから面食らった。
「ご結婚なさったのですか?確か前にお会いしたときは、指輪なんて嵌めていらっしゃらなかったですよね?」
女性はやはり、こういうことに目ざとい。
仕事の話をしながらも、ちゃんと確認していたのだ、と感心する。
「はい。つい一ヶ月前に入籍しました。ご報告が遅くなって、すみません」
「……そうですか」
一瞬、平野さんの瞳が曇り、しかし、それを打ち消すように、微笑んだ。
「おめでとうございます。お幸せになってくださいね」
「ありがとうございます」
痛みを堪えるような、そんな微笑み。
つい半年前の自分を思う。
『結婚が決まりました』
そう綾音が俺や矢田部長に報告してきたとき、俺は胸の痛みをちゃんと隠せていただろうか。
綾音が好きだと気づいたあの瞬間。
ちゃんと『おめでとう』と目を見て言えていただろうか。