あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「もしかして、お相手は、中田綾音さん?」
「…………」
咄嗟に否定しなかった俺こそが、平野さんの勘が正しいことの証だった。
俺は結婚相手の名前を隠すことを諦めて、質問をする。
「どうして彼女だと?」
「女の勘ですよ。好きな人が誰を想っているかなんて、大体分かります」
言ってから、平野さんは首をすくめて笑った。
俺はあまりに突然の告白に、呆然と彼女を見つめるしかできない。
「井上さんが中田さんを想っていること、痛いほどわかっていました。だけど、悔しくて彼女にイジワルしちゃった」
「ヘッドハンティングの件を話して、牽制したことですか」
「あら、そこまでバレてるのね。そうなの。イジワルしたこと、中田さんに謝っておいてください。それから、『お幸せに』とも」
真っ直ぐな瞳に、俺は真摯に頷いた。
先ほどから、ずっと心配していた綾音に一番に伝えに行こうと思った。
「平野さん、ありがとうございます」
想いには答えられなかったけれど、俺を好きだと言ってくれるのは、嬉しい。
その気もちを感謝に変えて、頭を下げた。