あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
仕事の話題を終えて、平野さんが帰るとき、俺は会社の玄関まで送りにいった。
世間話をしながら、俺の後ろを歩いていた平野さんの足が不意に止まる。
彼女は驚きに目を開いていた。
「平野さん……?」
その視線を辿ると、そこにいたのは、外回りから帰ってきたと思われる松山さん。
松山さんは俺の姿を見て、お疲れと手を上げたあと、背後にいる平野さんを見て、同じように固まった。
「……陽子(ようこ)……?」
硬直した松山さんが何とか唇を動かし、紡いだのは、その名前。
確か、平野さんのしたの名前が陽子であったことを思い出す。
「……悟」
同じように平野さんが紡いだのは、松山さんの名前だ。
……うそ、だろ?おい
平野さんと松山さんがしたの名前で呼びあうほど、親しかったとは聞いてないぞ。
……二人が醸し出す、気まずい空気に俺は呼吸音さえ躊躇われ、静かに息を飲んだのだった。