あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


松山さんの言葉に、俺はそこまで驚かなかった。
何となく、そんな気はしていたから。

「3年前、俺が静岡に行くのをきっかけに別れたんだ。陽子にはついて来てもらいたくて、プロポーズしようと思ったんだが……」

そういえば、俺がここに入社した頃から、彼には長く付き合っている恋人がいた。

今まで名前さえ知らなかったけれど、もしかしたら、平野さんだったのかもしれない。

「ちょうどその頃、陽子は主任補佐になることが決まった。主任補佐になれば、その後の出世が見えてくる」

かつての記憶を回想しているのだろうか。
松山さんは瞳を閉じて、痛みを堪えるように、吐息して、言葉を紡いだ。

「……だから、別れた」

平野さんの出世のために。
平野さんが仕事を続けていけるように。

松山さんの気持ちは分かる気がした。

この数ヶ月、彼女とともに仕事をして知った、あの情熱。

知っている人からは言えないかもしれない。
仕事を辞めて、ついて来てほしい、なんて。

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