あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


「 そういえばさ。お前と綾音ちゃんの馴れ初めって何?」

まるで、話題を変えるように、松山さんが聞いてくるから、俺は言葉に詰まった。

馴れ初めなんて言えるほど、褒められた関係じゃなかったのだ。
綾音の弱みに漬け込んだ、結果だ。

前の彼との婚約破棄から、俺との結婚までがあまりに早かったせいで、綾音は色々と陰口を言われていた。

口ごもってしまった俺に、松山さんは笑いかける。

「人の噂では、結構ひでーこと言われてるけど、どうなんだよ?」

「ひでーこと、ですか。たとえば?」

「綾音ちゃんが、お前と元カレの二股かけてた、とか」

そんな噂が女性社員の間であった。
本人には聞こえないようにコソコソしてたつもりかもしれないが、噂話をする声ほど、意外とよく通り、こちらに筒抜けなのだ。

「ちょっと遊んだだけだったのに、責任取らされることになって、お気の毒に、ってお前には同情する声もあったぞ」

「そんな同情いりませんよ」

むしろ、綾音と結婚することになって、めちゃくちゃ喜んだのに。

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