あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「営業補佐も最近は皆、真面目ですし、何とかなりますよ。それに部長と主任が社長に歯向かうだなんて……」
「いや、総務部のほうも、この中途半端な時期の人事異動は迷惑になるだろう」
俺の言葉に、綾音は口を閉ざした。
重ねて、俺は続ける。
「それに、社長に歯向かう訳じゃない。この人事異動は仕事の効率を下げて、不利益になることを告げるだけだ」
公私混同しないように、と吉岡さんに言われたが、彼女には言われたくなかった。
俺と綾音を引き離すために、親に頼んで、人事に命令を下してもらうとは、職権乱用も甚だしい。
「総務部長にもこの話が言っているかもしれないから、彼にも協力を仰ごう」
矢田部長の言葉に俺は頷いたが、綾音はどこか悩んだ様な、焦った様な表情で、返事に窮していた。
「綾音?どうかしたのか?」
彼女の様子がどこかおかしくて、顔を覗き込むと、綾音はハッとしたように目を見開いて、それから顔を横に振った。
「何でもないですよ。私も最後まで営業部に居たいです。部長、主任、よろしくお願いします」
いつもの笑顔を見せたあと、綾音は丁寧に頭を下げた。
「全力を尽くして、君を引き止めるよ。君は部内一、優秀な補佐なんだから」
矢田部長は綾音の笑顔に答えるように、微笑んで、そう宣言した。
そう。負けてはいけない。
俺たちがこれから主張することはきっと、間違っていないはずだから。