あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
総務部長と俺はほとんど面識がなかったが、矢田部長とは同期なのだそうだ。
「あいつなら、きっと、社長のところに一緒に行ってくれるよ。仕事の効率を一番に考える奴だから」
そう笑った部長の後ろに付き添いながら、俺は総務部のあるフロアに向かった。
矢田部長は事前に総務部長に内線を通して、話がある、という旨を伝えていたから、フロアに入るや否や、温厚そうな男性が俺たちに微笑みを浮かべた。
白髪頭に、細縁の眼鏡。
眼鏡の奥には、温かみのある瞳がこちらを向いていた。
「やぁ、矢田。久しぶりだな」
「おう。宮原(みやはら)。悪いな、時間取らせて」
「いや、別にそれは構わないが。やぁ、君と会うのは初めてかな?井上くん」
総務部長こと、宮原さんは俺に向かっても、微笑んでくれた。
ありがたいことに、名前まで覚えていただいている。
「宮原部長に名前を覚えていただいているとは、光栄です」
「飲み会のときとか、矢田がよく君のことを褒めているんだ」
そんなところで、話題にされているのか、とむず痒くなる。
「それで、今日は、少し頼みがあって、ここまできたんだが……」
矢田部長の切り出しに、宮原部長は特に驚くでもなく、分かっているよと言うように、深く頷いた。
「ここで話もなんだし、会議室へ行こう。矢田の頼みなら、全力は尽くすよ」