あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


会議室へ入ると、矢田部長は単刀直入に本題を告げる。

「君もすでに知っていると思うが、うちの営業補佐が総務部に異動になっている」

「ああ、見たよ。井上綾音さんだよな?社長直々に、人事に命令が下ったそうだが……」

宮原部長は、困惑したような表情を浮かべてそう言った。
突然の人事異動を、彼も怪訝に思っていたようだ。

これなら、話は早い。
俺は彼の目を見ながら、言葉を紡いだ。

「実は、井上綾音は先日結婚した私の妻です。夫婦で同じ部署なのは問題があるとのことで、命令が下ったのですが……」

そう告げると、ああ、と合点がいった顔をする。

「そういえば、君が結婚したという話は聞いたよ。そうか、同じ部署の子だったんだ。おめでとう」

「ありがとうございます」

お祝いの言葉に、俺は丁寧に頭を下げた。
社交辞令の言葉だろうが、彼があまりにも温かな笑顔をくれるから、嬉しくなる。

同じ部署からはほとんど歓迎されていなかった俺たちの結婚。
綾音の婚約破棄が噂になってから、ほとんど日にちが立っていなかったから、余計だったのだろう。

結果として、綾音には陰口の対象とされてしまった。

そんなことがあったから、"おめでとう"と言われることが何より嬉しいのだ。

しかし、本題はそこじゃない。
だから、俺は表情を引き締めて、宮原部長と向かい合う。


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