あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「社内規則では夫婦が同じ部署は好まれないことは知っています。しかし、妻は今年の4月以降、出産のために休職することが決まっているので、人事部長と約束して、彼女の異動を育休明けにしてもらっていました」
人事部長を責めるつもりはない。
社長直々に頼まれたことを拒むことは恐らくできなかったのだろう。
「大体、話は読めてきた。確かに、総務部としても、あと2ヶ月で休職する社員が来ても、困るな」
宮原部長はあごひげを擦りながら、軽く目を伏せた。
矢田部長が言った通りだ。
彼は冷静に物事を見極めて、仕事の効率を一番に考えている。
「さすが、宮原。話が早くて助かるよ」
それまで口を閉ざしていた矢田部長が満面の笑みでそう言った。
「これから、僕と井上くんで社長に直々に異動命令の撤回をお願いに行くんだ。よかったら、ついてきてくれないかな?」
ちょっと昼飯でも行かないか、とでも言うかのような軽い口調だ。
俺からはこれでもかというほど、丁寧に頭を下げる。
「我々にお力を貸していただけませんか?お願いします」