あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。

7



思いのほか、質素なんだな。
それが、初めて社長室に入った感想だ。

社長室といえば、社長がふんずりかえって仕事できる椅子とかあるんだ、と思っていたが、そういうものは見当たらない。

部屋の真ん中に置かれた机と椅子は、どう見ても、俺たちが使っているものと変わらない気がする。

社長秘書の女性に促されて、腰掛けた応対用の椅子も、営業部にあるそれと大差は無さそうだ。

「井上くんは、社長室に入るのは初めてかい?」

「はい」

宮原部長の言葉に頷く。

「想像以上に質素だろう?」

まるで、心の声を読まれていたかのようで、俺は苦笑した。
いくら、社長も秘書も部屋にいないからって、さすがに、堂々と言うのは憚られたからだ。

「社長の意向なんだよ。社長だからといって、特別視されるのは可笑しいってね」

< 189 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop