あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「……わかりました。井上主任」
吉岡社長は、こちらを見て、微笑む。
「異動の件はなかったことにしよう。私が人事部長に直々に白紙に戻すように言うから、安心してほしい」
「……社長」
異動は白紙に戻す。
夢のような一言に俺は思わず頭を下げた。
「ありがとうございます!」
……やったよ、綾音。
お前、営業部に残れるよ。
心の中で、綾音に伝える。
あと2ヶ月だけかもしれない。
それでも、彼女に精いっぱい仕事をしてもらいたい。
「すまない。彼女が妊娠していることを全く知らなかったんだ。人事の方によく確認しておくべきだったよ」
頭を上げた俺に社長は微笑む。
「娘にも理由を伝えておこう。娘はどうやら、君のことを気に入っているようだが、彼は奥さんに一途だと釘も刺しておかないと」
後半はからかうような口調に、俺の頬に赤みがさす。
"奥さんに一途"
そうだな、まさか、こんなに愛おしいと感じるようになるとは、思わなかった。
「井上主任、元気な赤ちゃんが生まれることを願っていますよ」
社長のありがたい言葉に俺は再びありがとうございますと言った。