あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


「松山さんは、未練たらたらみたいだから、社内の女性は目に入らないかもな」

「でも……平野さんって、貴幸さんのこと、好きだったんじゃ……?」

一瞬、綾音の顔が曇った。
ヤキモチ妬いてくれているみたいで、嬉しくて、少し笑いが漏れる。

どうしてか、笑うときには唇が動かない俺は、いつも鼻で笑ってしまう癖がある。

そういう笑い方が"馬鹿にされてるみたい"とか言われて、別れることになった女もいたな。

でも、綾音はそんなことは言わない。

「何だか、貴幸さんが嬉しそう。どうして?」

「ひみつ」

綾音のやきもちが、嬉しいとか、口が裂けても言えない。

「平野さんはちゃんと断ったよ。"お幸せに。イジワルしてごめんなさい"って、平野さん、言ってた」

「そうなんだ」

「当たり前だろ?俺には綾音がいるのに」

また鼻で笑って、そっと唇を彼女のそれに落とした。

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