あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「……ここで間違いないんだな?中田」
タクシーが止まったとおもったら、マンションの前だった。
まだどこかよそよそしい私が帰る場所。
「はい。ここです。あ、タクシー代は……」
慌てて財布を取り出そうとしたら、主任に止められた。
「いいよ。大した金額じゃない。ここは俺が払うから、お前はゆっくり休め」
「……はい」
……ゆっくり、休めるのだろうか?
せめて、私がお酒呑めるなら、この寂しさも紛らわせることができるのに。
「今日はありがとうございました。主任。お疲れ様でした」
タクシーの外に出て、一礼したら、また主任が不機嫌そうに眉をひそめた。
え、私何か怒らすようなことした?と慌てる中、主任は運転手の方を見て、更に驚くことを言った。
「やっぱここで会計してください。俺もおります」
「はい?」
素っ頓狂な声を上げたのは私だ。
主任の家ここらへんじゃないよね?
なんで!?
ここらへんは住宅街で、大通りがないから再びタクシーを捕まえるのは、至難の業だ。
私が慌てている間に、主任はさっさと代金を支払い、タクシーを帰してしまった。
「主任、なんで!?」
「話ぐらい聞くよ、中田。今のお前見てたら、呑めない酒無理やり呑みそうだ」
ああ……心配してるんだ、このひと。
そうだよね。私がアルコール中毒で死んでたら、主任が後味悪いもんね。
「大丈夫ですよ?私」
笑う私の顔を見て、さらに眉間のシワを深くした主任は不意に私の腕を掴んだ。
「とりあえずお前の部屋行くぞ」
「え、ちょっ……」
「空元気ばっかすんな、あほ」
主任が私の腕をグイグイ引っ張って、マンションの中に連れて行く。
「部屋引っ越したばかりで片付いてないんですけど……」
困惑する一方で、ひとりで部屋に入らずにすむことに、ホッとしている自分もいた。
それに気づいたから……私は……。
「何号室?」
「……205号室です」
さみしいから。ひとりは嫌だから。
ごめんなさい、主任。
もう少し、一緒にいてください。