あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「ただ今戻りました」
「戻りました!!」
俺と春日が二人してフロアに戻ると、補佐の女性陣がおかえりなさいと声を掛けてくれる。
自席でコートを脱ぎながら、あれ、と思った。
綾音がいない。
いつも席に座って、パソコンと向き合っている綾音が今日はそこにいなかった。
冷え予防のためのひざ掛けは丁寧に折りたたまれて、椅子にかけられている。
コートも同じく、椅子に掛かっている。
珈琲でも淹れにいったか、休憩してるのか?
「あの、井上主任、確認お願いしてもいいですか?」
補佐の鈴木が俺に作成した資料を持ってくる。
今度のプレゼンで使うものだ。
「ああ、見るよ」
資料を受け取って、目を通す。
誤字を見つけて訂正しようと胸元のポケットに仕舞われたペンに手を伸ばしたときだ。
「あの……先ほどから、中田さんがフロアを出たきり、戻って来られないんですけど」
鈴木がそう告げた。
心配そうな表情で鈴木は俺の顔を覗き込む。