あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「もしもし」
本当はそれどころじゃないが、松山さんの電話に出ると、彼は焦ったような声で俺を呼んだ。
「井上。4階の大会議室まで来い」
「急ぎの仕事ですか?」
声音からして、急を要するものだと分かったから、俺の声も早口になる。
足はもう階段のほうに向かっていた。
「仕事じゃない。緊急事態だ」
「緊急事態!?」
「綾音ちゃんと吉岡さんが睨み合ってる」
俺の眉間に皺が寄る。
それは緊急事態だ。
いなくなったと探していた綾音が、吉岡さんと会っている。
一時間以上前からふらりと消えた綾音。
睨み合う二人の女。
嫌な予感が胸をよぎる。
「……すぐに行きます」
俺は4階に向かって、階段を駆け上がった。