あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


「中田が目を覚ましたら、伝えておきます」

『ああ。井上くんも、午後から有給にしといたから、そばにいてあげて』

「ありがとうございます」

心優しく、よく気が利く部長に、俺は見えないことは分かっているが、思わず頭を下げた。
部長も忙しい人だし、そろそろ切ろうかと思った時、部長がああそうだ、と付け加えた。

『社長が先ほど、直々に営業部に来られた』

部長の言葉に俺は息を呑んだ。

そうだ。
俺は、社長令嬢に手を上げてしまった。

その話が、社長に回っていたら……俺の顔は青ざめる。

失業するかもしれない。
あのときは頭に血がのぼって、やってしまったけれど、今思えばとんでもないことをしてしまった。

「……吉岡さんには酷いことをしました」

幾ら、酷いことを言われたとはいえ、流石に女性に平手打ちは駄目だよな……。

項垂れた俺に、電話の向こうから聞こえたのは、笑い声だった。

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