あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「お入りください」
俺がそう言うと、社長は軽く頭を下げて、入ってきた。
吉岡さんもその後に続く。
綾音が慌てて身体を起こそうとするから、俺は側に寄り、手伝った。
社長は手で制したが、そういうわけにもいかないだろう。
「突然、申し訳ない。井上さん。実は噂であなたが運ばれたと聞いてね」
「そんな……こんな大ごとになってしまって……申し訳ありませんでした!」
営業補佐の綾音にとって、社長と話す機会はほとんどないだろう。
緊張のためか、声がうわずっている。
「謝らないでください。赤ちゃんはいかがでしたか」
「切迫流産でした。暫くは入院することになりました」
そう伝えると、社長の顔に少しだけ、赤みが出てきた。
安堵のように吐息したあと、社長は予想外の行動に出た。
綾音に向かって、深く頭を下げたのだ。