あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
室内に沈黙が流れた隙をついて、俺は一歩前に踏み出し、口を開いた。
「社長、私も一つ社長に謝らなければなりません」
社長は驚いた様子で顔を上げた。
次に俺が頭を下げる。
「社長、私は、貴方の大切な娘さんに手を上げてしまいました」
自分のつま先しか見えない。
けれど、社長は驚いたように息を呑んだ気配がした。
「それは本当か?」
「事実です」
社長が吉岡さんに尋ね、吉岡さんが淡々と答えた。
俺はぎゅっと目を瞑る。
何をされても仕方ない、と思った。
大事な娘に平手打ちをした。
子ども思いの父なら怒っても当然だ。
なのに何も起こらない。
怪訝に思って顔を上げると、社長の右腕の袖を吉岡さんが涙目になりながら、掴んでいた。