あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。

「美麗……」

社長は驚いた表情で彼女の名前を呼ぶ。

「お父さん、お願いです。井上さんを責めないで」

吉岡さんの指先も声も震えていた。

まさか、吉岡さんがこんなことを言うなど予想外で、俺も綾音も何も言えなかった。

「叩かれたのは、私が酷いことを言ったからなの。井上さんを怒らせて当然のことを私はしたのよ」

自嘲気味に笑う吉岡さんを社長はじっと見つめていた。

「綾音さんが羨ましかった。好きな人と結婚して、子どもも授かって……。どんなに頑張っても私の周りに来る男はいつもお金目当てだったもの」

彼女の瞳から零れた涙が頬を伝う。

社長の一人娘として、会社の跡継ぎとして育てられた吉岡さんだからこその悩みなのだろう。