あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。

10



「吉岡さん、向こうでボーイフレンドができたそうですよ」

汗ばむ陽気のなか、微笑んだ綾音が報告してくれる。

7月の初旬。
東京で梅雨明けが発表された日に、綾音は元気な赤ちゃんを出産した。

切迫流産を無事に乗り越えたあと、3月に妊娠6か月を迎えて、産休に入ったのだ。
同じ頃、吉岡さんは退社して、イギリスへ留学した。

次期社長の座は、吉岡さんではなく、今の専務に移ったことは、一時期、社内を騒がせた。

「元気そうか?吉岡さん」

日曜日の昼下がり。
生後数日の赤ん坊を抱きながら、綾音は吉岡さんとのメールのやりとりを教えてくれる。

「元気そうだし、幸せそうでした」

女の友情は謎だらけ。
どうしてあれだけいがみ合っていた2人が和解し、連絡を取り合っているのか俺にはよく理解できない。

だけど、まあ、綾音が幸せそうだからいいかと思っている。

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