あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「いやぁ、春日くんが失恋ね〜」
「中田さんもなかなか楽しんでますよね」
綾音も楽しそうに笑う。
「これでも、俺、結構ヘコんでるんですよ」
知ってるよ。
取引先にどんな理不尽なことを言われても、クールにいたお前が、泣きそうなくらい辛そうだったもんな。
呑みに連れてやろうと思っていたら、綾音の陣痛が始まって、結局やらずじまいなんだけど。
「ま、幸せなんて簡単には掴めないよ。春日くん。苦しんだ先にしか、見えないものなんだって」
矢田部長が1番最もらしい助言をしている。
その部長が俺を見るから、つられて春日が目を追った。
「人生の先輩がいるだろう?春日くん」
「井上主任のことですか?」
「そう。あいつなんか、ようやく中田さんへの想いに気づいたときには、彼女婚約してたぞ」
「たしかに……!」
春日が何処か納得したように頷いた。
「主任も一度は失恋してたんですね!」
お仲間発見と言わんばかりに目を輝かす春日。
「辛かったですか?主任」
「さあな」
後輩相手に失恋話をするのは気恥ずかしいから、誤魔化したのに、そんな俺を矢田部長は苦笑する。
「強がっちゃって。その日の飲み会はいつもより、呑む量多かったじゃないか」
笑いながら、矢田部長は綾音も知らない話を暴露してくれる。