あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


「彼と別れて、住む家もなく、ここで暮らすことになりました。……で、現在に至るということです」

まるで、何かのコメディみたいに、私は笑いながら、その話を終わらせた。

主任は私の目を見つめながら、また眉を寄せた。ふ、不機嫌そう……。

彼の感情を唯一、滲ませる主任の眉。
だけど、今まで不機嫌しか見たことがない気がする。

私が見逃しているだけなのかな。
でも3年はこの会社にいるけれど、主任の笑顔は知らない。

……そんなことを考えていたから、主任の突然の質問を聞き逃がしてしまった。

「……え?いま何て」

「だから、お前なんでベッドで寝ないの?」

主任の視線はいつの間にか、床に置かれた毛布に向けられていた。

何故ベッドで寝ないか?
そんなの……そんなの……決まってるじゃないですか。

「真新しいベッドで一人で眠る勇気はさすがに持ち合わせていませんから」

一人でダブルベッドなんて、寂し過ぎますよ、主任。

「ふぅん」

質問したくせに、つまらなそうに返事をして、主任はテーブルの上にマグカップを置いた。

体ごとこちらに向けられて、まっすぐな視線が私を射抜いた。

こんな近くに……こんなしっかり、主任の視線を感じたのは、初めてだった。

「主任……?」

「中田。正直に答えろ」

まるで業務命令みたいに命令口調で言われたら、はいとしか答えられない。

「中田、お前、寂しいか?」

感情を滲ませない瞳だけれど、その真剣な瞳に導かれるように、私は素直に頷いた。

誤魔化せなかった。主任を家に上げた理由を。

「中田」

「……寂しいです」

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