あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「私のアパート引き払っちゃったから、この部屋で私、暮らしていい?」
「そりゃ、もちろん!」
「うん。わかった。じゃあ、荷解きは私一人でやるから。いいよ。勇輝はその人のところ、行ってきな」
ほら早くと立ち上がらせて、勇輝を玄関まで追い立てた。
「じゃ!今までありがとう。その家庭教師さん、大切にするんだよ!わかった?」
「う、うん……」
私の勢いに負けて、勇輝は困惑気味に返事をしながら、されるがままに、部屋を追い出された。
「元気で、ね。さよなら」
自分でそう言っておきながら、さよならが虚しかった。
だってこれからこの家で一緒に暮らすはずだった。
好きなのに。こんなにも大好きなのに。
その想いは私だけだったなんて。
でも想いの丈をぶつけるなんてできなくて、涙の代わりに、私は笑う。
「ほら!早く行く。私は大丈夫だから。ね?」
宥めるようにそう言って、彼が身を翻したのを見てから、玄関の扉を閉めた。
身体がズルズルと崩れ落ちた。
「……う……ぐ……ひくっ……」
涙が落ちて、真新しい玄関を濡らした。
まだ近くに勇輝がいたら駄目だから、できる限り、声は手の甲を噛みしめて、声を押し殺す。
こんな風に泣いて縋ったら、彼はどうしただろう?
強がりで、馬鹿な私。
3年間もそばにいたのに。
その心はここになかったなんて。
彼からプロポーズされたとき、本当に嬉しかったのに。
今日も幸せいっぱいで、この部屋に来たのに。