あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
忘れられるわけない、と何となく視線をベランダから室内に移して、私は見つけてしまった。
テーブルの上に置かれた一枚の白い紙。
まるで重りのように、結婚指輪が上に置かれていた。
昨晩はこんなものなかったと、近づいて手に取った。
そして、一瞬、息を忘れた。
『おはよう。今日は仕事だから帰る。部屋の鍵は郵便受けに入れとくから。また来るよ』
手帳を引きちぎったものらしいメモは、主任の綺麗な筆跡でそう綴られていた。
主任の筆跡だとわかるのは、いつも仕事で手書きの注意書きなどを見てきたから。
「相変わらず綺麗な字だなぁ」
また来るよ……か。
ってことは、昨晩のことは、一夜限りのものじゃないってこと、なのかな。
わからないけれど、でも、それでも嬉しくて、ひとり笑ってしまった。
玄関の郵便受けにはちゃんと鍵が入っていた。日曜出勤お疲れ様です、と主任に心の中で呟いてから、私はキッチンに立った。
久しぶりに朝ごはんを作ろう。
昨日まで、ひとりぼっちが寂しくて何も気力が沸かなかったのに。
主任の温もりが私にエネルギーをくれたみたいだった。