あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
井上主任の真顔での嫌味は効果てきめんらしく、鈴木さんは、肩を怒らせながら、自分のデスクに帰っていった。
無言で廊下に出ていった主任を私は慌てて、追いかける。
「主任!井上主任!!」
私の声に足早に歩いていた主任が動きを止めて、身を翻した。
主任の視線が私を認めたのを待って、私は頭を下げた。
「あの、ありがとうございました!」
私が言いたかったことを、主任が全部言ってくれた。
スカッとした。
私がああ言っても、きっと彼女は反発したけれど、主任が言ってくれたおかげで、言い争いにはならなかった。
「礼を言われる筋合いはない。鈴木さんの態度に腹がたったから、言ったまでだ」
顔を上げた私に潜めた眉を解いた主任がそう言った。
「でも、おかげで私、とてもスッキリしました」
ありがとうございますと再び頭を下げる。
「お礼なんかいいって。あ、そうだ。すぐデスク戻るから、珈琲淹れて置いといてくれ」
「了解しました!」
私の返事を聞くと、彼は軽く頷いて、またスタスタと歩いていった。
私も踵を返して、フロア内の給湯室に向かう。