あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


やはり、赤の他人からの視線や嫌味は身構えてしまうらしく、ホッとするとともに、体の力が抜けた。

結婚直前の婚約破棄。
私も他人事だったら、そのうわさ話にちょっとの興味本位で耳を傾けていたんだろうな。

ため息をついた。
……勇輝は今頃何をしているのだろう。

彼も会社に報告していたはずだ。噂のマトにされていないのだろうか。
結構優しいところがあったりするから、むしろ、女子社員から手放しに喜ばれてたりして。

それはそれで、なんか不公平な気がする。

ヤカンでお湯を沸かしながら……知らず知らずのうちに、ため息をついた。

「なんのため息だよ、それ」

突然声がして、ビクンと体が跳ねた。

振り返ると、さっきまでフロアにいなかった主任が、給湯室の扉に寄りかかるように立っている。

「主任、いつの間に帰ってこられたんですか?」

「今さっき。喉乾いたから、何か飲みたくて。自分で淹れようかなって思っただけ」

今日は5月末だが、日中は気温が7月末の平均気温まで上がるだろうと、天気予報のお姉さんが言っていた。

汗を知らないような爽やかな表情の主任だが、かなり暑かったのだろう。

「タイミングいいですね。ついでに淹れますよ?」

言いながら、戸棚から新たなマグカップを取り出した。

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