あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
ひとしきり、玄関先で泣いて、嗚咽が少し収まった頃、私は立ち上がり、洗面台に駆け込んだ。
「……顔、ひどい」
何かで冷やさなければ、明日まで腫れは引かなさそうだ。
とりあえず先に設置してもらっていた冷蔵庫から、アパートから持ってきた氷枕を取り出し、瞼に押し当てた。
タオルも何も引かずに押し付けてるから、かなり冷たかったけれど、それが心地よくもあった。
これから荷解きをしなくちゃいけないのに、ものすごい脱力感を感じた。氷枕を貼り付けて、フローリングの床にゴロンと寝転んだ。
何もしたくない……。
ともすれば、夢の中に引き込まれそうな私の意識は、不意に鳴った携帯の着信音で引き戻された。
もしかして、勇輝から?
さっきの言葉は嘘だよ、ごめんねって、電話?
馬鹿馬鹿しい妄想は、そこに表示された名前を見てあっさり打ち砕かれる。
私は一度大きくため息をついて、電話に出た。
いつまでも逃げる訳にはいかなかったから。
「もしもし。お母さん?」