あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
主任が鈴木さん相手に嫌味を言ってからは、仕事を押し付けられることもなくなった。
そのおかげで、部長や主任から頼まれる仕事に存分に力を注げるようになって、褒められることも増えたのだ。
「ん。さすが」
デスクワークのときは、口数が少なくなる主任。
だけど、書類を見たあとのこの言葉は主任のなかで、最大級の褒め言葉だから、私は崇めるように、その嬉しい言葉を受け取った。
「ありがとうございます。仕事に戻りますね」
主任に踵を返した私は、カーデガンのポケットで、スマホが震えるのを感じた。
うちの会社は制服というものがない。直接取引先の方とお会いする機会の無い営業事務の私は、小奇麗な(いちおう)白ブラウスに紺のカーデガン。
下は細かい水玉模様のフレアスカートだ。
そのカーデガンのポケットで、スマホが鳴るのはこのところ、よくあることだった。
デスクに戻って、ちらりと画面を確認する。母からメールが届いていた。
『話があるの。一度実家に帰ってきなさい』