あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
「驚いたよ。君は婚約破棄の理由、ご両親に一切、話してなかったんだね」
そういえば、結局、両親には理由を言ってなかった。
この所、仕事仕事で、それどころじゃなかった。
「お父さんたち、何か言ってた?」
「逆に謝られたよ。綾音が自分のせいだって言ってたからって」
……そういえば、そんなことを言ったな。
勇輝ひとりを悪者にできなくて。
大好きな人だったから。
思い出はちゃんと、綺麗なままで残していたかったから。
「どうして、自分のせいだって言った?俺のせいにしなかった?」
問いかける勇輝の声が震えていて、今にも泣き出しそうだった。
「……何となく」
「んなわけ、ないだろ」
ツッコミが早いよ。勇輝。
「綾音は何となくで行動するやつじゃない」
……主任にしろ、勇輝にしろ、親友のみのりにしろ、どうして、みんなこんなに鋭いんだろうか。
観念して、私はしぶしぶ応える。
「勇輝一人を悪者になんて、したくなかった」
勇輝が瞳で次の言葉を促している。
ねぇ、勇輝。
好きだと言われた言葉は、嘘だったかもしれない。
本当に好きな人に向けての言葉だったのかもしれない。
でも。でもね。
「勇輝がくれた優しさは嘘じゃないと信じたいの」
悲しくて。いっぱい泣いた。
寂しかった。でも今は笑って言える。
「幸せになってほしいって思ってる。いちばん、大好きなひとと」
別れた日に言ったお幸せにという言葉は、単なる強がりだった。
喋ってないと、泣き出しそうだったから。
でも、今は言えるよ。強がりなんかじゃなくて、心から。