あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
しかし、彼女は私を睨みつけたまま、逸らさない。
「嘘よね。井上さんは、あなたのことをよく見ていた」
「そんなことはないと思いますが」
「アルコールが呑めないことも、知っているし。顔色が悪いことにもすぐに気がついたわ」
平野さんの顔に、必死さが見え隠れしている。やっぱり、彼女は主任に惚れている、そう感じた。
「彼は部下に対する観察力があります。私でなく他の部下でも、井上主任は同じことをしていたと思いますよ」
……そう。自惚れちゃいけない。
主任にとって、私は都合のいい女だ。
主任が私のことを好きだなんて、そんなこと、ない。
表情が動かない主任。
愛の言葉も何にもない関係。
決して、隣で寝ようとしない主任。
……主任が私を好きなはずない。
自分で出した結論にどうしようもなく、胸が痛かった。