あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


主任が好きだ。

不意に心の中で溢れた言葉は、ストンと胸に落ちた。

そう。好きなのだ。
好きだから、我儘になる。

同じ想いを返してもらえなくて、苦しくなる。

「中田さん」

「……はい」

平野さんは私から視線を逸らして、どこか遠くを見つめる。
店員が慌ただしそうに、動き回る。

平野さんからの敵意に怯んだのか。
それとも、本当に疲れが出たのか。

どこか目眩を起こしそうになるのを、懸命に堪えなければならなかった。

そんな私をよそに、平野さんは開口する。

「私は彼をヘッドハンティングしようと思うの。うちの会社に」

「……え……」

平野さんの言葉を反芻して、意味を理解したとき、さらに顔から血の気が引いた。

待合室の椅子に座っていてよかった。
きっと、立ちっぱなしだと、確実に倒れていた気がする。

「ヘッドハンティング……ですか?」

「営業部の一人が辞めちゃってね。今優秀な人材を探しているところなの。もちろん、今よりもっと好条件よ」

主任とはいえ営業部の一社員にそんな権限あるのだろうか。
何故、そんな情報を私に教えるのか。

答えが出ないうちに、足音がして、主任が戻ってきた。

「お待たせしました。すみません。丁度、タクシーも到着しましたよ」

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