あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


それは午後三時頃だった。

今日は午前中に会議が一本あるだけで、午後からはデスクワークをしていた。

ひたすらキーボードを叩く私に声を掛けてきたのは、営業部新人、春日くんだ。

「中田さん。忙しいところ、すみません。井上主任って今、会議か何かですか」

私は主任の秘書ではないが、今のプロジェクトのおかげで共に行動することが多い。
主任の予定を一番よく知っているのは、恐らく営業部の中で今は私なのだろう。

「今は会議入ってないはずだけど、どうした?」

「取り引き先との件で相談したいことがあったんですけど、今は矢田部長もいなくて……」

主任のデスクを見ると、なるほど。
いない。

社員の予定が書かれたホワイトボードには、主任にも部長にも外出の文字はない。

「一息入れるために、休憩所にいるのかも」

うちの会社には給湯室の他に、自販機とベンチが置かれた休憩所が各階にある。

「そうかもしれませんね。僕見てきます」

春日くんはそう言ったけれど、立ち去る気配はない。

怪訝になって、見つめると、春日くんは若干、眉を潜めて私を見つめていた。

「なに?」

「中田さんも、一息入れたらどうですか。お昼ごはんも食べずにやってませんでした?」

その言葉に息を呑む。
誰にもバレていないと思っていたけど、気づいている人がいた。

実は昼も食欲がわかなくて、抜いてしまったのだ。

「体調崩してませんか?今も顔色良くないですよ」

……確かに、ダルい。

胸やけに加えて、熱っぽさとダルさを感じた。

「そうね、一息いれるわ。一緒に休憩所に行きましょうか?」

パソコンをフリーズ状態にしてから、財布を持って、フロアを出た。
休憩所はエレベーターホールの更に奥、廊下の一番端にある。

「なぁ、井上くん」

休憩所に入る手前で、矢田部長の声がした。
言葉から察するに、隣には主任がいるらしい。

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