あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
主任に促されて、私たちはリビングのソファに腰掛けた。
私は俯いて涙を手のひらで拭う。
「中田。話し合おう」
彼の手が私の肩をトントンと叩いた。
私は深呼吸をして、顔を上げる。
この子だけは守りたい、とお腹に手を置いた。
そして、強い口調で告げる。
「私は堕ろすつもりなんて、ありません。苦しくても、大変でも、産みます」
「俺が訊かなかったら、俺には何も言わなかったつもりか?」
彼の言葉に唇を噛む。
言えるはずない。
あなたは……恋人なんかじゃないのに。
「……たぶん、言えませんでした」
素直に答えると彼の目が細められる。
「それはどうして?」
「主任の迷惑になるかもしれないって思ったら……怖くて」
「ああ、だから、"ごめんなさい"って叫んでいたのか」
主任は一人納得したかのように、頷いて、それから私の目を覗き込むように見た。
無表情の主任。
でもその目に真剣さが宿っている。
その真剣さに惹かれるように、私はその目を見つめ返す。
主任が口を開いた。
「中田。俺たち、結婚しよう」